WiSP JOURNAL / BASEBALL
セパレーションを引き出すために、WiSPが最初に行うのは、今の身体とスイングの確認です。
「もっと割れをつくりたい」「腰を先に回したい」。
野球の打撃について考えるとき、胸と骨盤の動きの違いを意識する選手は多いと思います。
ただ、練習方法を探す前に確認したいことがあります。
どのくらい身体を動かせるのか。実際にはどのタイミングで回っているのか。
そして、自分が思い描いているスイングと、映像に映る動きは一致しているのか。
この記事では、胸部と骨盤の「セパレーション」を整理しながら、
評価・動画・本人の感覚をもとに、
WiSPでどのように練習内容を考えているかを紹介します。
セパレーションとは、胸部と骨盤の向きの差
打撃でいうセパレーションは、簡単にいえば、
胸部と骨盤がそれぞれ向いている方向の差です。
Hip–Shoulder Separation
(ヒップ・ショルダー・セパレーション、HSS)と呼ばれます。
研究では、肩や骨盤などの目印から身体の向きを定め、その角度の差を扱います。
ただし、どの目印を使うか、どの局面を測るかは研究によって異なります。
腰の関節だけをどれだけひねったか、という意味ではありません。
[1]

目標角度や理想フォームを示すものではありません。
WiSPでは、実際の動画と本人の感覚を照らし合わせながら確認します。
現場で使われる「割れ」や「タメ」は、この動きと関連して説明されることがあります。
ただ、それらの言葉には、タイミングや選手の感覚なども含まれるため、
研究上の角度とそのまま同じ意味にはできません。
WiSPで大切にしていること
目指すのは、ねじれを大きく見せることだけではありません。
その選手が扱える動きの中で、目指す打撃につながる使い方を探していきます。
研究の数字は「目標値」ではなく、動きを考える材料
打撃研究では、身体各部の回転速度やバットの速さなどが調べられています。
例えばEscamillaらは、熟練した年少者と成人の打者を、
それぞれ12人ずつ比較しました。
[2]
| 測定した項目 |
年少者 12人 |
成人 12人 |
|---|---|---|
| 上部体幹の最大回転速度 | 717度/秒 | 857度/秒 |
| ボール接触時のバットの速さ | 25m/秒 | 30m/秒 |
出典:Escamilla et al., 2009の公開抄録に示された群の比較値。
回転速度は「どれくらい速く回るか」であり、
セパレーションの角度そのものではありません。[2]
この結果は、対象となった年少者と成人の間に違いがあったことを示します。
一方で、セパレーションを増やす練習を行い、
その効果を検証した研究ではありません。
「この角度にすればバットが速くなる」
「成人の数値を学生の目標にすればよい」とは、
この比較だけでは言えません。
身体の発達や経験などが異なる集団の数字として読む必要があります。
また、胸と骨盤の向きの差を見ただけで、
筋肉に蓄えられたエネルギーや、その利用量まで分かるわけではありません。
見た目のねじれを、力の伝わり方の証明として扱わないことも大切です。
ドリルを決める前に、何を確認するのか
ここからは研究の結果そのものではなく、
WiSPが実際の指導で大切にしている考え方です。
私は、セパレーションを引き出したいときほど、最初の評価を大切にしています。
評価とは、良い・悪いを決めつけることではなく、
今の身体と動作の特徴を整理することです。
同じように「割れが少ない」と見えても、
身体を動かせる範囲が関係しているのか、
その範囲をスイングで使えていないのか、
本人のイメージが動作と合っていないのかで、取り組み方は変わります。
身体がどう動くか
股関節や体幹などをどの範囲まで動かせるか、
自分でその動きをコントロールできるか、
痛みや違和感はないかを確認します。
スイングでどう使うか
踏み込みから回転、インパクトへとつながる中で、
胸と骨盤がどのように動いているかを確認します。
可動域とは、関節や身体を動かせる範囲のことです。
ゆっくり動かせる範囲と、実際のスイングで扱える動きは、
分けて確認しています。
「このドリルが良さそうだからやる」という選び方だけでは、
本人が今取り組みたい課題とずれることがあります。
練習を否定するのではなく、
何のために選ぶのかを明確にするために、
先に現状を確認します。
本人の感覚と、動画に映る動きを照らし合わせる
WiSPで学生を指導していると、
本人の感覚を中心にスイングをつくろうとしている場面があります。
感覚は大切な情報ですが、
それだけでは実際の動きとのずれに気づきにくいこともあります。
そこで、スイングの動画を撮り、一緒に確認します。
「どこを動かしたつもりだったか」「映像ではどう動いているか」を
照らし合わせながら、次の取り組みを考えます。
| 動画で確認すること | 本人に聞くこと |
|---|---|
| 胸と骨盤が動き始める様子 | どこから動かしたつもりだったか |
| 踏み込みからインパクトまでのつながり | タイミングは取りやすかったか |
| 意識を変えた前後の動作の違い | 振りやすさや力みはどう変わったか |
| 何度か振ったときの動きのばらつき | 同じ感覚で繰り返せそうか |
動画だけで「正解」を決めるわけでもありません。
映像では変化があっても、本人がタイミングを取りにくかったり、
無理に形をつくっていたりするなら、その情報も次の調整に生かします。
通常の動画では、撮影方向や遠近によって見え方が変わります。
WiSPでは動作の特徴を共有する材料として用い、
研究用の三次元計測と同じ精度で角度や回転速度を測れるものとは扱いません。
評価して、試して、修正する。その繰り返しで形をつくる
私のジムでは、一つの方法を全員に当てはめるのではなく、
その人の感覚や動作の癖、目指したい方向に合わせて選択肢を考えています。
身体の動かし方を確認する練習、必要な筋力を養うトレーニング、
スイングの中での意識の調整など、何を選ぶかは評価と目的によって変わります。
-
01 現在の身体とスイングを確認
可動域、動作の特徴、本人の感覚を整理します。
-
02 目指す方向を共有
どんな打撃をしたいのか、何に困っているのかを話します。
-
03 課題の見立てと方法を選ぶ
何が関係していそうかを考え、取り組む内容を絞ります。
-
04 実践して、動画と感覚を確認
動きの変化と振ったときの感覚を照らし合わせます。
-
05 内容を調整し、経過を確認
続けること、変えることを整理し、次回以降も確認します。
ここでの課題の見立ては、確定した原因ではありません。
「これが関係しているかもしれない」と考え、
実践した反応を見て修正していくものです。
トレーナーとしての考え
変化が小さいときも、単に努力が足りないと考えるのではなく、
選んだ方法や伝え方が合っているかを見直します。
本人が感じていることも聞きながら、
取り組みやすい選択肢を一緒に探していきます。
その場で振りやすくなったことと、試合でも使えるようになったことは別です。
練習を続けたときにも同じ動きができるか、
実際の打撃でどう感じるかまで、経過を見ていきます。
「開きが早い」「ねじれが少ない」だけで判断しない
WiSPでは、一枚の画像や一回のスイングだけで課題を決めることは避けています。
どの局面でそう見えるのか、狙っている動きとどう違うのかを、
前後の流れと合わせて確認します。
傷害についても、動きの特徴から単純に結論を出すことはできません。
Taguchiらは、大学野球選手18人を対象に、
腰の椎間板に変性がある群とない群のティー打撃を比較し、
肩と骨盤の最大回転速度に達するタイミングの差などを報告しています。
[1]
ただし、これは群を比較した研究です。
特定のスイングが変性を起こしたことや、
セパレーションを修正すれば傷害を防げることを証明したものではありません。
練習を進めるうえで
ねじれを大きくすることを優先して、
痛みを我慢しながら形をつくる必要はありません。
痛みが出る場合はその練習を中断し、
続く場合や繰り返す場合は医療機関に相談してください。
ジムでの動作確認は診断を目的とするものではありません。
まとめ|その選手に合う動きを、確認しながら探す
セパレーションは、打撃を考える一つの視点です。
ただ、その大きさだけでスイング全体を判断したり、
練習方法を決めたりはできません。
まず身体とスイングを評価し、本人の感覚と動画を照らし合わせ、
目的に合わせて試して修正する。
WiSPでは、この積み重ねを大切にしています。
「正しい形」を一方的に当てはめるのではなく、
どんな打撃を目指したいかを共有しながら、
その人が使える動きを一緒に探していきます。
参考文献
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以下の文献リンクは別タブで開きます。
-
Taguchi N, Izumi S, Miyakawa S.
Analysis of trunk rotation during baseball batting with lumbar disc degeneration.
Fukushima Journal of Medical Science. 2023;69(1):1–10.
原著論文を読む(本文公開)
-
Escamilla RF, et al.
A comparison of age level on baseball hitting kinematics.
Journal of Applied Biomechanics. 2009;25(3):210–218.
doi:10.1123/jab.25.3.210.
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特定の練習による競技成績の向上や傷害予防を保証するものではありません。
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