「筋肉痛=良いトレーニング」と思い込んでいませんか?
部活動やクラブでスポーツに励む学生の中には、筋肉痛を“成果の証”と捉える人も少なくありません。
しかし、痛みの有無だけでトレーニングの効果を判断するのは危険です。
今回は、筋肉痛の正体と、そこに関わる生理物質「ブラジキニン」に注目しながら、学生アスリートが意識すべきトレーニングの考え方を紹介します。
筋肉痛の正体とブラジキニンの関係
筋肉痛、特に運動後に遅れて現れる「遅発性筋痛(DOMS)」は、筋繊維の微細な損傷や炎症によって起こると考えられてきました。
しかし近年では、痛みの原因は単なる損傷ではなく、神経の過敏化も関係していることがわかってきています。
その中心にあるのが「ブラジキニン」というペプチドです。
運動によって筋細胞や血管内皮細胞からブラジキニンが分泌されると、痛みを感じる神経を刺激し、さらに神経の感受性を高める物質の分泌も促します。
この結果、軽い刺激でも強い痛みを感じるようになり、筋肉痛として認識されるのです。
つまり、「筋肉痛がある=筋肉が成長している」とは限らず、痛みは神経の反応によるものだという理解が重要です。
痛みがなくても筋肉は育つ
筋肉の成長には、適切な刺激と十分な回復が不可欠です。
筋肉痛が起きなくても、必要な負荷がかかっていれば筋力や筋量は向上します。
NSCA(全米ストレングス&コンディショニング協会)では、トレーニングの目的に応じて、回数やセット数、重量、休憩時間の目安を示しています。
たとえば筋肥大を目指す場合は、6〜12回の反復を3〜6セット行い、中〜高重量(最大挙上重量の70〜85%程度)を扱うことが推奨されています。
セット間の休憩は30秒〜90秒程度とし、筋肉への張力と代謝ストレスを適度に与えることで、筋タンパク合成を促進しやすくなります。
ただし、学生の場合は高重量を扱う機会が少ないため、これらはあくまで「参考値」として理解しましょう。
重要なのは、フォームを意識しながら安全に、全身をバランスよく鍛えることです。
筋肉痛は“参考程度”にとどめよう
筋肉痛はトレーニングの反応のひとつとして参考にはなりますが、それ自体を目標にするべきではありません。
むしろ、強い痛みが残ると、日常生活や次の練習に支障をきたすこともあります。
また、痛みの部位が筋肉ではなく関節や腱である場合は、筋肉痛ではなく怪我の兆候かもしれません。違和感があるときは、無理せず休むことが大切です。
ケガを防ぐ「根拠ある負荷設定」
学生アスリートにとって最も重要なのは、継続可能で安全なトレーニングです。
限界まで追い込むような高負荷トレーニングは、ケガのリスクや回復の遅れによるパフォーマンス低下につながります。
負荷設定のポイントとしては、トレーニングの目的(筋力・筋肥大・筋持久力)に応じた回数と重量を目安にすること、フォームが崩れない範囲で負荷をかけること、そして部位ごとに休息日を確保しながら全身をバランスよく鍛えることが挙げられます。
週2〜3回の頻度がひとつの目安になります。
まとめ:痛みより“質”を意識しよう
筋肉痛は、トレーニングの成果を測る絶対的な指標ではありません。
むしろ、痛みを重視しすぎることでケガやオーバートレーニングにつながるリスクもあります。
学生アスリートにとって大切なのは、「安全で効果的な刺激を継続的に与えること」。
高重量にこだわらず、全身をバランスよく鍛えながら、科学的根拠に基づいた負荷設定と適切な回復を意識することが、長期的な成長とパフォーマンス向上につながります。