ピッチング練習をしていて、
「肘の位置は?」「肩の開きは?」「リリースの角度は?」
と体の動きを意識しすぎて、動きがぎこちなくなった経験はありませんか?
フォームを意識することは大切ですが、意識の向け方を間違えると動きが硬くなり、かえってパフォーマンスを下げてしまうことがあります。
このときにカギになるのが、「インターナルフォーカス」と「エクスターナルフォーカス」という考え方です。
インターナルフォーカスとは?──体の動きを意識しすぎる落とし穴
「インターナルフォーカス(internal focus)」とは、自分の身体の動きそのものに注意を向けることを指します。
たとえば次のような意識です。
- 肘をもう少し上げよう
- もっと体をひねってから投げよう
- 指先でスピンをかけよう
一見、技術向上につながりそうですが、実はこの“体の中への意識”が動作を不自然にする要因になることが多いのです。
運動学の研究では、インターナルフォーカスは動作の自動的な協調を妨げ、結果的にパフォーマンスを低下させることが示されています(Wulf, 2013)。
つまり、体の一部に意識を集中しすぎると、体全体のリズムや流れが崩れやすくなるのです。
エクスターナルフォーカスとは?──目標に意識を向けると動きが変わる
一方で「エクスターナルフォーカス(external focus)」は、体ではなく外の環境や目標に意識を向けることを指します。
たとえば、以下のような意識です。
- ボールをキャッチャーミットの中心に通す
- グローブを目標に向かって突き出す
- 相手の胸を狙って送球する
このように「外にある目標」に意識を置くと、体の動きは自然に連動し、余計な力みがなくなります。
実際、Wulf(2013)の研究では、エクスターナルフォーカスの指導を受けたアスリートの方が、動作がスムーズで、精度も高く、力強さも向上することが報告されています。
中学生のピッチャーにこそ大切な「シンプルな意識」
特に中学生年代の選手は、体の成長途中でフォームを意識しすぎると、動作がぎこちなくなりがちです。
そんなときは、まずシンプルな目標意識から始めるのが効果的です。
- 「キャッチャーミットのだいたい真ん中に投げよう」
- 「目標に向かってグローブを出そう」
- 「ボールをあの的に通すイメージで投げよう」
こうした言葉がけは、選手が動作全体を自然にまとめる助けになります。
監督やコーチがフォームの細かい部分を修正したい場合でも、まずは外への意識を優先すると、スムーズなフォームを保ったまま改善が進みます。
実践例:意識を変えるだけで投球がスムーズに
ある中学生チームでの事例を紹介します。
フォームを気にするあまり、投球時に肩が早く開いてコントロールが乱れていた選手がいました。
そこで「肩を開くな」という指導をやめ、代わりに「ボールをキャッチャーの帽子めがけて投げよう」と伝えたところ、数回の投球で腕の振りがスムーズになり、球のキレが戻りました。
このように、意識の方向を少し変えるだけで、動きの質が大きく改善することがあります。
フォームそのものを直す前に、まず「どこに意識を向けているか」を見直してみましょう。
まとめ:体ではなく“目的”に集中しよう
投球がぎこちなく感じるときは、体の動きに意識を向けすぎているサインかもしれません。
そんなときは一度シンプルに考え、外の目標に意識を向けて投げることを意識してみましょう。
- インターナルフォーカス(体への意識)
→ 複雑な動作では自然さを損ないやすい - エクスターナルフォーカス(外への意識)
→ 動きがスムーズになり、精度・力強さが向上
野球の上達は、単に筋力や技術を磨くだけでなく、「意識の向け方」も練習の質を左右する重要なポイントです。
フォームに悩んだときこそ、一度「外を見る」ことを意識してみてください。
それが、自然で力強い投球を取り戻す第一歩になります。

