キックボクシングをはじめとする格闘技では、試合前の計量に合わせた減量が日常的に行われます。

その多くは短期間での水分制限や発汗による「急性脱水」を伴い、パフォーマンス低下や健康リスクを引き起こします。

特に危険とされるのが体重の2%を超える脱水です。

これは見た目にはわずかな数字ですが、実際の競技力には致命的な影響を及ぼします。

体重の2%脱水が意味するもの

スポーツ医学の知見では、体重の2%の脱水でもパフォーマンス低下が顕著に現れると報告されています。

例えば、体重70kgの選手であれば:

  • 70kg × 0.02 = 1.4kgの体重減少
  • これは 約1.4リットル(1400ml)の水分喪失 に相当

水筒1本分程度の水分を失っただけで、筋力・持久力・反応速度は確実に低下し、勝敗を左右するレベルの差が生まれるのです。

さらに、3〜5%を超える脱水になると痙攣や意識障害のリスクすらあり、競技続行は極めて危険とされています。

脱水が引き起こす主な影響

  • 筋力の低下:筋細胞内の代謝効率が落ち、パンチやキックの切れが鈍る
  • 反応速度の遅延:神経伝達効率が下がり、防御や攻撃判断が遅れる
  • 体温上昇と持久力低下:発汗機能が乱れ、ラウンド後半に失速しやすくなる
  • 集中力の低下:脳機能も影響を受け、試合中の判断力が鈍る

つまり「たった2%の脱水」が、選手の総合的なパフォーマンスを大きく損なうのです。

具体的な対策① 食事による水分補給

水を飲むだけでなく、食事からの水分摂取を意識することが効果的です。

  • 野菜や果物:キュウリ、レタス、トマト、スイカなどは水分量が90%以上。自然に水分とミネラルを補給できる。
  • 味噌汁やスープ:水分と同時にナトリウムを摂取でき、発汗で失った電解質を補える。特に計量後の回復期には有効。

これらは「体内保持率」が高く、ただ水を飲むより持続的に水分を維持できるのが利点です。

具体的な対策② 運動前の水分補給

運動や試合の30分程度前には、スポーツドリンクの摂取が推奨されます。

  • アクエリアスやポカリスエットといったアイソトニック飲料(体液とほぼ同じ浸透圧)は吸収が速く、エネルギーと水分を同時に補給可能。
  • 薄めすぎは逆効果:市販の濃度は体液吸収に最適化されているため、薄めると低張液となり、かえって吸収効率が低下する場合があります。

そのため、基本的には規定濃度のまま飲むことが望ましいといえます。

具体的な対策③ 計量後から試合までのリカバリー

計量後は短時間でコンディションを整える必要があります。

  • 電解質を含む飲料で水分保持を優先
  • 炭水化物を組み合わせ、筋グリコーゲンを回復
  • 消化の良い食事(ご飯・麺類)とともに、果物やスープで水分補給

この「飲料+食事」の二段構えが、最も効率的に脱水を解消します。

まとめ

キックボクシングにおける急性脱水は、体重のわずか2%(70kg選手で約1.4リットル) の水分減少でもパフォーマンス低下を招きます。

筋力・反応速度・持久力・集中力のすべてに悪影響を及ぼすため、対策は必須です。

具体的には、野菜や味噌汁による食事由来の水分補給、試合前30分のアイソトニック飲料の摂取、そして計量後の計画的なリカバリーが重要となります。

水分補給は単なる「喉の渇きを癒す行為」ではなく、勝敗を左右する戦略の一部なのです。