ラグビーのような高強度・高接触スポーツでは、強くなるために練習量を増やすことが不可欠です。
しかし「やればやるほど強くなる」というのは半分正解で、半分は誤解です。
練習量を増やすことで身体に「過負荷」がかかり、適応(=強化)が起こりますが、その限界を超えると オーバートレーニング に陥り、パフォーマンス低下やケガのリスクを高めてしまいます。
では、練習量が適切か、それとも過剰かを判断するためにはどのような指標を用いるべきでしょうか?
過負荷とオーバートレーニングの違い
- 過負荷(オーバーロード)
→ 成長のために必要な刺激。強度や量を計画的に上げることで、身体は適応して強くなる。 - オーバートレーニング
→ 適応できる限界を超え、疲労が回復しない状態。免疫力低下、集中力の欠如、パフォーマンス低下を引き起こす。
要するに「強くなるための負荷」と「壊れてしまう負荷」は紙一重。だからこそ、客観的な指標でコントロールすること が大切です。
最適な指標とは?
① 主観的運動強度(RPE:Rate of Perceived Exertion)
選手自身が感じる「今日の練習のきつさ」を数値化する方法。
例えば、Borgスケール(6〜20)や0〜10段階で表す。
- メリット:簡単で即時に記録できる
- デメリット:選手の性格や状況によってばらつきがある
→ しかし「主観的な疲労感」は、科学的データとも強く関連すると報告されており、最も実用的な指標のひとつです。
② 心拍変動(HRV:Heart Rate Variability)
安静時の心拍間隔の揺らぎを計測する方法。自律神経のバランスを反映し、疲労や回復度を客観的に把握できる。
- 低下 → 交感神経優位(疲労・ストレス蓄積)
- 安定 → 副交感神経優位(回復傾向)
ウェアラブル機器の普及で現場でも測定可能になっており、科学的で信頼性の高い指標です。
③ 睡眠の質と量
オーバートレーニングの初期兆候として最も現れやすいのが「睡眠の乱れ」。
- 寝付きにくい
- 夜中に目が覚める
- 朝起きても疲労感が残る
→ これらは単なる生活リズムの乱れではなく、身体が回復しきれていないサインです。
④ パフォーマンステスト
定期的にスプリントタイム、ジャンプ高、握力などを計測する。
- 数値が普段より明らかに低下していれば、疲労が蓄積している可能性が高い。
シンプルながら客観性があり、選手も変化を実感しやすい。
⑤ 主観的健康チェック(Wellness Questionnaire)
「疲労感」「筋肉痛」「気分」「睡眠」「食欲」などを1〜5点で記録するシート。
海外のプロチームでも導入されており、簡易かつ効果的にコンディションを把握できる。
補足のアドバイス
1. 指標は「組み合わせて使う」べき
単一の指標では限界があります。
例えば「RPEは高いけど、HRVは安定している」なら、一時的な心理的ストレスかもしれません。
→ 主観(RPE・睡眠)+客観(HRV・テスト)を組み合わせることが最も信頼性を高めます。
2. 過負荷を恐れすぎない
「オーバートレーニングを避ける=楽をする」ではありません。強くなるためには一時的に疲労が溜まる時期も必要です。
重要なのは “計画的に”疲労を与え、計画的に回復させる ことです。
3. 回復の質を高める工夫
- 栄養(特に炭水化物とタンパク質のバランス)
- 質の高い睡眠
- アクティブリカバリー(軽いジョグやストレッチ)
- メンタルケア(ストレス管理)
練習だけでなく、回復の質を高めることが「オーバートレーニングの予防薬」になります。
まとめ
練習量を増やすことは強化に必要ですが、無計画に続ければオーバートレーニングのリスクが高まります。
最適な指標は「主観+客観の組み合わせ」 です。
- 主観:RPE、睡眠、体調チェック
- 客観:心拍変動、パフォーマンステスト
さらに、計画的な疲労と計画的な回復 を両立させることが、成長とケガ防止の両立につながります。
ラグビー選手に限らず、スポーツを楽しむすべての人にとって「練習を増やす=必ずしも良いことではない」という理解が、長期的な成長の鍵になるのです。