ラグビーの試合後半になると、「タックルが浅くなる」「ジャンプの高さが落ちる」といった現象を多くの選手が経験します。

このパフォーマンス低下は単なる疲れではなく、筋肉の疲労特性と心肺機能の働きが複雑に絡み合った結果です。

今回は、なぜ後半に力が落ちるのかを、筋持久力と心肺疲労の両面から解説し、さらに実際のトレーニングでどう改善できるかまで紹介します。

1. 後半のパフォーマンス低下のメカニズム

タックルやジャンプは、瞬発的な筋収縮を必要とする動作です。

試合前半は筋肉に十分なエネルギーが供給されるため、高い力を発揮できます。

しかし、後半になると以下の要素が影響します。

  • ATPやクレアチンリン酸の枯渇
    瞬発力に必要なエネルギー源が消費され、同じ力を出すことが難しくなる
  • 乳酸の蓄積と筋線維の疲労
    筋肉内の酸性度が上がり、筋収縮の効率が低下
  • 神経系の疲労
    脳から筋肉への信号がやや鈍り、タイミングや反応速度が落ちる

特にジャンプ力は、ハムストリング・大臀筋・下腿三頭筋などの瞬発筋群が強く関与します。これらの筋肉が疲労すると、踏ん張る力や跳躍力が低下します。

2. 心肺疲労の影響

後半の動作低下は、筋肉疲労だけでなく心肺機能の低下も大きく影響します。

試合中は高強度の運動が連続するため、酸素供給が追いつかない状態が発生します。

酸素が不足すると筋肉は効率的にATPを再生できず、乳酸が蓄積しやすくなります。

また、心拍数が高い状態が続くと、脳や中枢神経も疲労し、「動かしたいけど体がついてこない」という感覚が生まれます。

結果としてタックルやジャンプのタイミングや精度が低下します。

3. 筋持久力と心肺持久力の関係

筋持久力と心肺持久力は別々に考えることはできません。

筋肉が疲れても、酸素供給や乳酸除去が十分であればある程度パフォーマンスを維持できます。

一方で心肺機能が落ちれば、筋肉に十分なエネルギーが届かず、瞬発力が低下します。

つまり、試合後半のパフォーマンス低下は、局所的な筋疲労(筋持久力の低下)と全身的な心肺疲労の複合的な作用と理解するのが正しいのです。

4. パフォーマンス低下を防ぐトレーニングの考え方

後半の力を維持するには、筋持久力と心肺持久力の両方を高めることが不可欠です。ポイントは「爆発力を支える筋力」と「試合を最後まで支える持久力」の両立です。

(1) 筋持久力の向上

  • 下半身の多関節種目(スクワット・デッドリフト・ランジ)を中心に、低〜中重量で回数を増やす
  • インターバル形式で行い、短い休息でも力を発揮する感覚を養う
  • トレーニング中はフォーム重視で、ターゲットとなる筋肉(大臀筋・ハムストリング)を意識

(2) 心肺持久力の向上

  • インターバルトレーニング(高強度スプリント+低強度ジョグ)で試合中の酸素供給能力を高める
  • 持久系ランニングだけでなく、ラグビー特有のスプリント+回復動作を意識したドリルを実施

(3) 中枢疲労へのアプローチ

  • 呼吸法やリズムを意識して、試合中の集中力を維持
  • 栄養補給(炭水化物や水分)でエネルギー不足を防ぐ

5. 実際のトレーニングへの落とし込み

例えば、週2〜3回のウェイトトレーニングでは以下の組み合わせが効果的です。

  • 下半身:スクワット・デッドリフト・ランジ(8〜12回 × 3セット、フォーム重視)
  • ハムストリング・グルート強化:グルートハムレイズ・ヒップスラスト
  • 心肺系:スプリントインターバル 10秒全力+50秒軽め × 8本

このように、筋肉と心肺の両方を意識したメニューを計画的に組むことで、後半もタックルやジャンプの力を維持できます。

トレーニング方法はあくまで目安ですので個人の能力や課題によって工夫することが大切です。

6. まとめ

試合後半にタックル力やジャンプ力が落ちるのは、筋持久力と心肺疲労の複合的な影響によるものです。

局所筋の疲労だけでなく、酸素供給や乳酸除去、神経系の疲労も関わっています。

選手は、瞬発力を支える筋持久力と、試合全体を支える心肺持久力の両方を高めるトレーニングを意識することが重要です。

これにより、後半も安定したパフォーマンスを発揮でき、タックルやジャンプの質を最後まで維持できます。