ラグビーは「激しいコンタクト」「長時間の運動」「勝敗を分ける接戦」といった要素が重なり、肉体的にも精神的にも極限状態で戦うスポーツです。
そのため「ラグビーには根性が必要だ」とよく言われます。
しかし、単なる気合いや精神論で片づけるのではなく、科学的な根拠を踏まえて考えると、試合終盤における“根性”には明確な役割があることが見えてきます。
根性が問われる試合終盤
試合後半、特に残り20分を切った時間帯は「勝負どころ」と呼ばれます。
- 肉体的には疲労の蓄積により走力や判断力が低下する。
- 精神的にはスコア差やプレッシャーが重くのしかかる。
- 接戦であればなおさら、1回のタックルや1本のランが勝敗を左右する。
この状況で粘り続ける力は、まさに“根性”と呼ばれる領域です。
科学的視点①:疲労と脳の働き
運動生理学の研究によれば、試合終盤にパフォーマンスが落ちる要因のひとつは中枢性疲労(central fatigue)です。
- 長時間の運動で脳内のセロトニン濃度が上がり、「疲れた」という感覚が強まる。
- 脳が「これ以上は危険」と判断し、無意識に出力を抑えてしまう。
この時、本当の限界よりも早く身体がブレーキをかけてしまうため、「もう一歩いける」と信じて踏ん張れるかが勝負になります。
つまり、根性は単なる気持ちではなく、中枢性疲労に打ち勝つための心理的エネルギーともいえるのです。
科学的視点②:意志力と認知リソース
心理学では、強い意志や自己コントロールを発揮するためには「認知リソース」が必要とされています。
試合中は戦術判断や身体操作で脳が酷使され、後半になると集中力が切れやすくなるのです。
この時に大切なのは:
- セルフトーク(「自分ならできる」と言い聞かせる)
- ルーティン行動(呼吸法や決まった動作で心を落ち着ける)
- チームメイトからの声かけ
これらが脳の疲労を一時的に和らげ、根性を引き出す心理的支えとなります。
科学的視点③:ホルモンと闘争心
試合終盤にはストレスホルモンのアドレナリンやノルアドレナリンが分泌され、痛みを感じにくくしたり、瞬発力を一時的に高めたりする効果があります。
ここで「最後まで戦う」という強い意思を持つことで、ホルモン分泌が促され、肉体的限界を超える動きを生み出す場合もあります。
つまり根性は、単なる精神的概念ではなく、脳と身体を最大限に動員するトリガーとして科学的に裏付けられているのです。
根性を鍛えるトレーニング方法
1. 疲労下での実戦練習
体力が削られた状態でスキル練習やコンタクト練習を行い、「疲れても正確に動ける」習慣を作る。
2. メンタルトレーニング
- セルフトークやイメージトレーニングで自己効力感を高める。
- プレッシャーをシミュレーションするゲーム形式の練習。
3. チームカルチャーの形成
「最後まで諦めない」という価値観をチーム全体で共有することが、個人の根性を引き出す大きな要因となる。
まとめ
ラグビーにおける根性は、単なる気合いや精神論ではありません。
- 試合終盤に訪れる中枢性疲労を乗り越える力
- 認知リソースを補い、集中力を維持する心理的仕組み
- ホルモン分泌を引き出し、限界を超えて体を動かすトリガー
科学的に見ても「根性」はパフォーマンスの一部として重要であり、特に接戦の終盤には勝敗を左右する決定的要素となります。
つまりラグビーにおける根性とは、科学に裏付けられた“最後の武器”なのです。