「20kmを走るレースに向けて、練習でも20kmを走らなければならないのか?」

多くのランナーが抱く疑問です。

長すぎず短すぎず、20kmという距離は練習の設計に迷いやすい区間でもあります。

ここでは、運動生理学に基づいた確かな根拠と、トップ選手の実際の取り組みをもとに、最適な練習の考え方を整理します。

総走行距離が持久力を決める

ランニングにおいて「量」は土台を作る最重要の要素です。走行距離を積み重ねることで、筋肉内のエネルギー工場であるミトコンドリアが増え、毛細血管が発達し、心肺機能も強化されます。結果として「同じペースがより楽に走れる」状態になります。

言い換えれば、総走行距離は持久力の基盤そのもの。20kmを走るにも、まずはこの基盤を築くことが欠かせません。

質が仕上げる ― 閾値走とレースペース走

ただし距離を重ねるだけではスピードは上がりません。20km走では「乳酸閾値付近のペースをどれだけ長く維持できるか」がカギとなります。

そこで重要になるのが、閾値走(LT走)やレースペース走です。

  • 閾値走は「少しきついけれど持続可能な強度」で20〜40分ほど走る練習。20kmに必要なスピード持久力を鍛えます。
  • レースペース走は「目標ペース」で10〜15kmを走り、実際のレース感覚を体に覚え込ませる練習です。

つまり、量で基盤をつくり、質で仕上げるのが最も効率的な流れです。

20km以上走る必要はあるのか?

ここで多くのランナーが悩むのが、「20kmのレースに向けて、20km以上走る練習をすべきか?」という点です。

結論は、毎回は不要だが、周期的に取り入れると効果的です。

  • 代謝の面では、20kmを超えるロング走でエネルギー消費が大きくなり、脂質利用がうまくなる。
  • 身体の面では、長時間の負荷が腱や筋膜を強くし、故障に強い脚をつくる。
  • 心理面では、レース本番に向けて「これだけ走ったのだから大丈夫」という安心感を得られる。

おすすめは、2〜4週に1回、20〜26km程度のロング走をEペース中心で行うこと。これで十分に効果が得られます。

プロ選手のトレーニング例から学ぶ

ケニア・エチオピアのランナー

  • 週の走行距離は180〜220km。
  • 火曜はインターバル、木曜は20〜25kmのテンポ走、土曜は30〜40kmのロング走。
  • それ以外の日はすべてゆっくりジョグ。

強度をかけるのは週3回だけで、残りは低強度で距離を積み重ねています。

大迫傑(日本記録保持者)

  • 週150〜200kmを走行。
  • インターバル1km×10本、テンポ走15〜20km、ロング走35〜40kmを実施。
  • さらに週2回のウエイトトレーニングで走力を補強。

量と質をバランスよく組み合わせたスタイルです。

ノルウェー式(インゲブリクトセン兄弟)

  • 1日に2回、閾値走を行う「ダブルスレッショルド」。
  • 午前は6分走を数本、午後は400mの繰り返しなどを実施。
  • 血中乳酸を測定しながら、強度を科学的に管理。

細かいペースコントロールで効率よく質を積み上げる方法です。

👉 どのスタイルも共通しているのは、「走行距離は多いが、大半は低強度」「ポイント練習は週2〜3回」という点です。

故障を避けるために

  • 走行距離の増加は週5〜10%までに抑える。
  • 3〜4週に1回は回復週を設ける。
  • 疲労や痛みがある場合はロング走を思い切って休む。

「継続すること」こそが最大の近道です。

筋力トレーニングの活用

近年の研究では、スクワットやランジといった下半身の筋力トレーニングを取り入れることで、ランニングエコノミーが改善し、持久力走に良い影響を与えることがわかっています。特に20kmレースの終盤で「落ちない脚」を支えるために効果的です。

一般ランナーへの提案

  • まずは週の総走行距離を増やすことから始める(ジョグ中心でOK)。
  • 週2回はポイント練習(閾値走、レースペース走、インターバル)。
  • 2〜4週に1回は20km超のロング走を取り入れる。
  • 週1〜2回は補強筋トレを実施。
  • 漸増と休養を徹底して故障を防ぐ。

結論

20km走を速く走るために、毎回20kmを走る必要はありません。

重要なのは、

  • 量で基盤を作る
  • 質で仕上げる
  • 周期的にロング走で補強する

この3点を組み合わせることです。

トップ選手も実践しているこの原則は、科学的根拠に裏付けられ、一般ランナーにも応用可能です。継続して実行すれば、20km走は確実に今より楽に、そして速く走れるようになります。