ラグビーは全力でぶつかり合い、ボールを追いかけ、時には長い距離を駆け抜けるスポーツです。

試合中、選手は短いスプリントを繰り返したり、急に方向を変えたり、タックルやラックのために瞬間的な力を出したりします。

そのため、トレーニングではさまざまな走り方を身につけることが重要です。

走りの特性は、体が使うエネルギーのシステムと密接に関わっています。

距離や時間によって体は異なる方法でATP(アデノシン三リン酸)を作り出し、動きを支えています。

短距離スプリントは試合で最も多い動き

ラグビーでのスプリントは、研究によると試合中のスプリントの大半が20 m以下で、特に6~10 m程度の短距離スプリントが最も多いことが報告されています(フォワード中心で46%前後)。

バックスは局面によって20~40 mのやや長めのスプリントも記録されます。

このことから、短距離スプリントは試合中の基本的な動作として非常に重要であることがわかります。

このため、トレーニングでの短距離走は 10 m、20 m、30~50 m程度の範囲で設定するのが現実的です。

10~20 mは頻繁に発生するスプリント、30~50 mはポジションや局面によって出現する中距離スプリントに対応します。

スプリントに関わるATP-PC系

短距離ダッシュやタックルの瞬間的な力発揮にはATP-PC系が中心となります。

ATP-PC系は体内にあるATPとクレアチンリン酸を使い、すぐに大きな力を生み出します。

ATPは直接エネルギー源ですが貯蔵量は少なく、クレアチンリン酸がATPを再合成して約5~10秒間の全力運動を支えます。

つまり、瞬間的な爆発力が必要な動作はATP-PC系に依存しているのです。

切り返しや中距離スプリントに関わる解糖系

ラグビーでは相手をかわすために急に方向を変える場面が多く、10秒以上続く繰り返しのスプリントやタックル後の復帰動作では解糖系が関与します。

解糖系は筋肉内のグリコーゲンを使ってATPを生成するシステムで、酸素をほとんど使わず10秒~2分程度の中強度運動に対応します。

運動中に乳酸を生成しますが、短時間でエネルギーを供給できるため、中距離スプリントや切り返し動作、タックル後の素早い復帰に役立ちます。

ポジションごとの距離感を意識した10~50 m走

試合中のスプリント距離はポジションによって異なります。

フォワードは短距離スプリント(6~10 m)が多く、バックスは状況によって20~40 m程度のやや長めスプリントも行います。

全体として、スプリントの大部分は30 m未満であることが研究で報告されています。

このため、トレーニングでは10 m、20 m、30~50 mのスプリントを組み合わせることで、試合で発生するスプリント動作を幅広くカバーできます。

持久力を支える有酸素系

ラグビーは90分間を通じて高強度の運動を繰り返すため、持久力も不可欠です。

400 mや1.5 kmのランニングでは有酸素系が中心となります。

有酸素系は酸素を使って糖や脂肪を分解しATPを生成し、長時間にわたり安定してエネルギーを供給します。

心肺機能を高めることで、疲労時でも解糖系の回復が早くなり、短距離スプリントやタックルを繰り返す力が向上します。

持久力があると、試合終盤でも安定したパフォーマンスを維持できます。

まとめ

ラグビーの走りは単なる距離やスピードだけでなく、体のエネルギーシステムの組み合わせで成り立っています。

ATP-PC系は瞬発力やタックル、スクラムの爆発的な力に、解糖系は中距離スプリントや繰り返し動作に、有酸素系は長時間の持久力に関わります。

トレーニングでは短距離ダッシュ、切り返し、10~50 mの中距離スプリント、さらに400 m・1.5 kmの持久走をバランスよく取り入れることで、スピード・敏捷性・スタミナをすべて向上させられます。

試合で「あと一歩動ける」「相手より先に動ける」瞬間を生み出すためには、走りの多様性とエネルギーシステムの理解が欠かせません。