「もっと速く走れるようになりたい」
そう考えたとき、多くの人は走る距離や本数を増やそうとします。しかし近年の研究では、スプリント能力を高めるためには走る練習だけでなく、筋力トレーニングやパワートレーニングを組み合わせることが重要であることが示されています。
もちろん、スプリント動作そのものを練習することは大切です。しかし、速く走るためには「地面に力を伝える能力」が必要であり、その土台となる筋力やパワーが不足していると、走り込みだけでは伸び悩んでしまうことがあります。
今回は、スプリント能力向上における筋力トレーニングの役割について解説します。
スプリント能力向上には筋力トレーニングが有効
Keinerら(2022)の研究では、約10か月間にわたり異なるトレーニング方法を比較しました。
その結果、筋力トレーニングを中心に実施したグループのみが20mスプリントタイムを約2%改善しました。一方で、プライオメトリクスとスプリントを組み合わせたグループやファンクショナルトレーニング群、コントロール群では大きな変化は認められませんでした。
わずか2%と思うかもしれませんが、短距離競技や球技においては非常に大きな差です。
この研究からも、スプリント能力向上のためには筋力を高めることが重要な要素であることがわかります。
なぜスプリントに筋力が必要なのか?
スプリントでは、短時間で大きな力を地面へ伝える能力が求められます。
人は地面を後方へ押した反作用によって前へ進みます。そのため、地面に加えられる力が大きいほど、推進力も高くなります。
筋力が向上すると、
・地面を強く押せる
・加速しやすくなる
・推進力が高まる
・最高速度向上につながる
といったメリットが期待できます。
つまり、速く走るためにはフォームだけでなく、「力を生み出す能力」そのものを高める必要があるのです。
初心者と上級者では必要なトレーニングが違う
スプリント能力向上を考える際に重要なのが、競技レベルによって必要なトレーニングが異なるという点です。
初心者や経験の浅い人の場合は、まず正しい動作を習得することが優先されます。
・走り方の習得
・スプリントドリル
・加速走
・基本的な筋力向上
などを通して、身体をうまく使う能力を高めることが重要です。
一方で、中級者以上になると、技術練習だけでは大きな伸びが得られなくなります。
この段階では、
・筋力の向上
・パワーの向上
・力を素早く発揮する能力の向上
がパフォーマンスを左右します。
レベルが高くなるほど、「走るだけ」では限界が生じやすくなるのです。
アイソメトリックトレーニングも有効
近年注目されているのが、アイソメトリックトレーニングです。
アイソメトリックとは、関節を動かさずに筋肉へ力を入れるトレーニング方法を指します。
代表例として、
・スクワットホールド
・ランジホールド
・ミッドサイプル(ミッドサイプルプル)
などがあります。
研究では、アイソメトリックトレーニングによってジャンプ能力の向上や30mスプリントタイムの改善が報告されています。
また、
・神経系の活性化
・高い筋張力の獲得
・力発揮能力の向上
といった効果も期待できるため、ウォーミングアップとして活用する方法もおすすめです。
スプリント能力向上のためのトレーニングの流れ
スプリント能力を高めるためには、以下のような流れでトレーニングを組み立てると効率的です。
① アクティベーション
まずは身体を動かす準備を行います。
・動的ストレッチ
・モビリティエクササイズ
・軽いドリル
などを行い、筋肉や神経を活性化させます。
② 一般的筋力トレーニング
身体の土台を作る段階です。
・スクワット
・デッドリフト
・パワークリーン
・スナッチ
などを行い、大きな力を発揮できる身体を作ります。
③ パワートレーニング
筋力を素早く発揮する能力を高めます。
・ジャンプトレーニング
・プライオメトリクス
・ダンベルスナッチ
などが代表例です。
④ スプリント練習
最後に獲得した筋力やパワーを走る動作へ転移させます。
・スプリントドリル
・加速走
・最大疾走
などを実施し、実際のパフォーマンスへつなげていきます。
まとめ
スプリント能力を高めるためには、走る練習だけを繰り返せばよいわけではありません。
特に一定レベルを超えると、筋力やパワーの向上が不可欠になります。
筋力トレーニングで「大きな力を生み出す能力」を高め、プライオメトリクスやパワートレーニングで「素早く力を発揮する能力」を鍛え、最後にスプリント練習で走る動作へ転移させる。
この流れが、より速く走るための重要な考え方です。
「走る練習」と「筋力・パワートレーニング」をバランスよく組み合わせることで、スプリント能力はさらに向上していきます。

